地獄のうめき声で北海道に行けない!?

(ウメのレポートその1)

 あれは1990年7月末、大学3年の期末試験期間中のできごとだった。8月の北海道ツーリング(グレートツーリング '90 in 北海道)を目前にし、心はもう北海道に飛んでいた。「早く試験なんか終わらないかなぁ…。」明日の試験は、応用問題を解く為の公式さえ覚えてしまい、落ち着いてかかればなんとかなる。とはいっても日頃予習復習を全く行なっていないものだから、結局一夜漬けなのである。午前3時頃、意識がもうろうとしてきた。「まあだいたいこんなもんでよしとしておくか。肝心の試験中に頭が寝てしまっては、解ける問題も解けないからな。」と布団に入った。
 7月の終わりともなると、神奈川県は夜も暑くて(私のアパートのようにエアコンがついていない部屋は)窓を開けなくてはとても眠れない。部屋の明かりを消して数分後、窓の外から何やらうめき声が聞こえてきた。かなり大きな声である。それはまさに地獄の底から響いてくるような恐ろしい女性の声であった。「う〜…!う〜…!」こえ〜っ!!私の部屋は2階(203号室)である。恐る恐る窓から外を覗いてみるが、人影はない。どうやら真下の103号室から窓越しに聞こえてくるみたいだ。最近、新婚夫婦が入居してきた部屋だ。こんな真夜中に、何かの儀式でもやっているのか?ある意味それは当たっていた。そのうち、「う〜…!いい〜…!すごい〜…!もっと〜…!」なる言葉が聞こえてきたからだ。勘弁してくれ〜っ!。近所中に響き渡っているって知ってる?確かその部屋にはエアコンが付いているハズ。窓を閉めてやりなさい。だいたい何だそのよがり声は?恐過ぎるぞ!その声は何と2時間にも渡って響き渡り、その間、ずっと眠れなかったのだ。おのれ、絶倫夫婦め〜っ!
 朝、まどろみながら時計を見ると、「ゲゲッ!遅刻じゃ〜ん!?」今朝に限って目覚ましをセットするのを忘れていた!慌てて支度をするとバイク(FZR400RR-SP)にまたがり、いつもの道を全開で飛ばした。30分以上遅刻するとその試験は受けられなくなってしまう!しかしこの分なら5分位の遅刻で済みそうだ。すると突然、大漁旗のような旗を持ったおじさんが道の真ん中に飛び出してきた。「危ないじゃないか!」私は急停止しておじさんにそう言おうとしたら、更に何人か出てきて私を取り囲み、「はい、エンジン切って、こっちに押してきてね。」と言われた。なんてこったい!ねずみ捕りに引っ掛かってしまったのだ!警察のワンボックスカーに入るなり、「赤!」という声が聞こえてきた。制限速度50km/hの道で、40km/hオーバーの赤切符である。切符自体切られたことのなかった私はこの瞬間、試験のこともあるが、北海道が遠ざかっていく気がして、頭の中が真っ白になった。今まで通学路でねずみ捕りをやっているのを見たことはなかったし、噂さえ聞いたことはなかった。実は先日、この場所で死亡事故があり、急遽安全の為に行なったらしい。別に免許証を取り上げられることはなく、赤切符にサインをしたらリリースされた。後日通知が来るそうだ。
 試験にはぎりぎり間に合った。しかし先程のダメージはあまりにも大きく、「赤切符だぁ〜!罰金だぁ〜!免停だぁ〜!北海道がぁ〜!」が頭の中をぐるぐるして、もはや試験どころではなく、答案はほとんど書けなかった。今思えば、病気を理由にあのまま試験を受けず、再試験してもらえばよかった。その試験終了後、免停経験者の友人にことのいきさつを話すと、とりあえず召喚状が届くまでに1ヶ月位かかり、その間は(もちろん更なる違反はまずいが)走っていても問題ないということが分かった。1ヶ月だったら北海道に行って来れるじゃん!私はその友人の言葉に希望を見出していた。
 北海道には予定通りに行った。往路、「捕まったらやばいから…。」とスピードを控えめにしていたが、そんなことは北海道に上陸した瞬間に忘れていた。挙げ句の果ては、スピードリミッターが効くまで飛ばす始末である。捕まったらどうなっていたことか。北海道からアパートに帰って来たら召喚状が届いていた。消印はえらく前だ。出頭期限は…あさってだ!
 保土ヶ谷の交通簡易裁判所の略式裁判でお叱りを受け、即日判決で罰金80,000円を支払い、横浜の交通安全センターで免停30日を言い渡され、講習を受けて1日免停となり、やっとケリがついた。おかげで罰金と反則金の違いがよく分かった。夏休み明け、例の試験の結果は…みごとに単位を落としていた!
 この一件は、様々な出来事が偶然重なった結果引き起こされたものだが、単に運が悪かったで済ませてはいけない。大切なのは、ゆとりである。あせれば自然とアクセルを開け、それは事故にもつながる。勉強もそうだ。しょせん一夜漬けは一時しのぎにすぎず、知識が身に付かない。捕まったことは、事故を未然に防いでくれたのだと自分に言い聞かせている。

「あせるとロクなことはないぞ!」

「ナニをする時には窓を閉めよう!」


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