1992年の夏、「グレートツーリング '92 in 佐渡」を半月後にひかえた8月1日(土)のことである。当時私は仕事の関係上、東京都稲城市に住んでいた。ツーリングに行くのはお盆休み中で、参加予定は、私、オユタ、カンちゃん、ヒデ、ヒロ、マコちゃんの6名である。 |
愛車GSX-R400R-SPで近場のホームセンターに買い物に行く途中、アクセルレスポンスがやけに悪い。ぐいっとひねると、ゆっくりと苦しそうに回転数が上がっていく。どうなっちまったんだ?ちょうど途中でスズキのバイクショップがあったので、寄って診てもらった。「エアフィルターだね。」ショップのおやじは真っ黒に汚れたエアフィルターを外しながら言った。買って1年余りでこれかい?ひょっとして今年の3月、火山だらけの九州を走ったのが原因か?雲仙普賢岳の大火砕流直後の島原市は、少し駐車していただけでシートの上にうっすらと火山灰が積もっていたっけ。その後、阿蘇山、桜島でも火山灰をバイクに吸わせ続けた結果なのか?とにかく交換するほかはない。 |
「在庫ないんだよね。ちょっと待ってて。問屋に聞いてくるから。」…「問屋でも切らしちまってるわ。お盆明けじゃないと手に入らないって。」ガ〜ン!それでは遅いのだよ。その後、自分で電話で何軒かショップに当たってみたが、どれも回答は一緒であった。おそらくこの地域の問屋は同じなのだろう。しょうがない。だましだまし乗るか?来週の金曜日の夜(8月7日)に長野県の実家にバイクで帰省し、14日(金)から2泊3日で佐渡に行く予定なのだ。もう時間がない。ま、何とかなるだろう…。数日後、ヒデが仕事で忙しくて参加できないことになった。 |
8月7日(金)、会社からアパートに帰ってくると、支度をして実家に向けて出発した。エンジンの調子はますますひどくなる一方だ。高速代をけちってR20をひた走る。夜なので、さすがに交通量は少ない。途中、韮崎の辺りで後ろからヘッドライトの光がみるみる近付いてきた。おもしろい、相手になってやろう。とアクセルを開けたが、回転数が上がってくれない。その横をプレリュードが追い抜いていった。ついにエンジンは半分以上吹け上がらなくなってしまった。ちきしょう!プレリュードごときに負けることになっちまうとは!っていうかもう限界じゃん。このままではエンジンがいってしまいそうだ。 |
翌日、祈る思いで実家から最寄りのバイクショップに行ってみた。「長野市のパーツセンターに在庫があるそうだよ。」その時のオーナーは、私には神様のように見えた。翌日、早速入荷したとの知らせを受け、ルンルン気分でショップに乗り付けた。「じゃあ、すぐに付けちゃおうか。」といってバイクを店内に搬入。待つこと5分、「ごめ〜ん。」「え?」オーナーの手にしているエアフィルターは、私のバイク用の物とは全く違う形をしていた。注文書の形式名を間違えたのだ!パーツセンターは今日から休みに入っている。もはやこれまで。その時のオーナーは、私には悪魔のように見えた。しかも、「この状態でツーリングに行くなんて、バイクにとっちゃ自殺行為だね。」だと?(おのれ、2度とこの店は利用しないぞ!) そう誓ったところで、状況は改善されはしない。諦めだ…。 |
そんな訳で、泣く泣く私は佐渡行きを諦めたのだ。しかし、休み明けまでには東京に戻らなくてはならない。それまでにフィルターの交換は不可能だ。電車で帰って後日取りに来るか?いや、それも面倒だ。佐渡に無理して行ったつもりになればどうということはない。お盆休み最終日、だましだまし東京まで乗って行った。まるで50ccバイクに乗っているかのようであった。 |
休み明けの週末、息も絶え絶えのGSXは、神奈川県大和市にあるYSP高座渋谷に向かった。FZRとこのバイクを買った店だ。予め連絡して、フィルターは取り寄せてある。県道からR246に右折する時、反対車線の左折車に入れてもらったので、"ありがとうね"と振り返って手を上げた。そして再び前を見た瞬間、目の前に鉄の固まりが迫っていた。もはや間に合わぬ…。強い衝撃と共にバイクはトレーラーの後ろにめり込んだ。転倒はしなかった。頭の中が真っ白になっていると、トレーラーは何事もなかったかのように走り出したのである。蟻が象に噛み付いたようなものか。幸い引きずられることはなく、スポッと抜けた。フロント廻りがかなりいっていそうだったが、降りて前から見る勇気がなかった。それに、入れてくれた後ろのドライバーにばれるのが恥ずかしくて、そのまま発進してみた。なんとか自走はできるみたいだ。だが、ハンドルはガタガタと振動していた。人間でいうと、肺ガンを患っている患者が、病院に行く途中に事故にあったようなものだ。GSXよ、すまん! |
「よっ、ひさしぶ…え?」YSPのオーナーは唖然としていた。私もショップで初めて惨状を認識した。アッパーカウルやライトはバリバリに割れ、フロントフォークは曲がっていた。その他被害甚大。よく自走できたものである。修理費24万円。社会人1年目の私にはこたえた。 |
2週間後、GSXは復活した。吹け上がりもバッチリ。うれしくて、思わずそのまま箱根まで走りに行ってしまった。考えてみれば、ことの元凶はエアフィルターだった訳だ。そうか、なるほど… |
ちなみに例の地元のバイクショップは、この数年後に閉店した…。 |
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