無謀なおばちゃん

(マコちゃんのレポートその3)

 松本市の、とある3棟並びのアパートに我が家族は暮らしていた。駐車場は袋小路になっており、公道への出入り口をふさがれると、そこを利用する15台は身動きがとれなくなってしまう。
 大安吉日。待望の新居建築がスタートする晴れの日、シャキっと冷えて身も心も引き締まる。アパートの駐車場に並ぶ車のガラスは、霜が降りて真っ白になっていた。
 建築現場では地鎮祭の準備が着々と進んでいるはず。施主たる私が遅刻するわけにはいかないので、少し早めに出掛けることにした。無論、フロントガラスはクリアにしてスタート。
 そこへ、隣の棟の駐車場から袖ヶ浦ナンバーの小型車が「ぬう〜っ」と出てきたので、その車に続いて行くことにした。
 その直後、“バキッ!ギギギ〜…!!”という鈍い音が。前を行く小型車が、アパートの敷地内に立つカーポートの側壁にぶつかったのだ。
 このカーポート、追加料金で使用でき、屋根が曲線を描いて側壁の付いた支柱に繋がるしっかりとした造りのものである。小型車のフロントバンパーがベコリとへこみ、カーポートの壁の端っこはバキバキに砕けていた…。
 運転手のおばちゃん登場。しかし後続のこちらには目もくれず、車の傷を確かめるでもなく、平然とフロントとリヤのガラスをタオルで拭き始めた。しかも、アパートの駐車場から公道へ出る為の唯一の通路のど真ん中で。
 おいおい。そこで作業するなよ。っていうか、ガラスがあんな真っ白な状態で運転していたのか。怖ぁ〜…。あと2秒こちらの発進が早ければ、“バキッ”の相手はカーポートではなく、こちらの脇腹だったかもしれないのだ。危ない危ない。千葉県は霜が降りたりしないのかもしれないけど、そのまま走り出したら危ないってことくらいわかるだろう!
 クラクションを鳴らそうかとも思ったが、周囲が見えていないようだし、動転させて、急発進でもして更にどこかぶつけられても嫌なので、しばし観察することにした。
 一応、窓拭き作業終了。こんなガリガリの霜をタオルで拭いたくらいじゃ、大して視界が良くなるとも思えない。再発進を試みたものの、やはり窓拭きが不完全なようだ。ほんの少し動いてから、再び車から降り、窓拭きを再開。相変わらずこっちは公道へ出れない状態だ。
 「ハッ!」ようやく後続車がいることに気がついたらしい。(遅いよ!) 近付いてきて、「出ますか?」ときた。(見りゃわかるだろう!?)「こっちも、早く出かけたいンですけど(怒)。」「スミマセン。動かします」(当たり前だ。)
 あたふたしながら車に戻るが、どうも様子が変だ。運転席のドアノブを何回もフックしているぞ?そう、エンジンを掛けたままドアロックをしてしまったのだ
 再びこちらに向かって歩いてきた。「ここから、出れませんか?」と指差す先は、その小型車とアパートの自転車置き場の間の1.5mくらいの隙間…。出れるか〜〜〜っ!?
 刻一刻と地鎮祭の開始時刻が迫る。のんきにおばちゃんの相手をしている暇はない。だんだん焦ってきた。何とか強行突破する方法はないかと周囲を見渡す。その結果、考えられるプランがふたつ見付かった。ひとつは15cm位の段差と花壇を乗り越えるルート。もうひとつは草むらを抜け、アパートの境界のポールとポールの間をすり抜けるルート。どちらも車1台ギリギリ通れそうだ。
 花壇を乗り越えるルートは植木を踏ンづけなきゃならないので却下。ここは草むらルートを選択することにした。「うぇ〜、なんでこんなところを通らなきゃならないンだぁ〜(怒怒)!!」とぼやきながらも何とか通過。あぁ、通れてよかった…。
 建築現場にはギリギリセーフで到着。すでに神主さんは準備完了していて、施主待ち状態だった。滞りなく神事を済ませてアパートに戻ってきた時、さすがにその車はいなくなっていた。やれやれ。
 その後、ぶつけた車とカーポートの側壁はキレイに修理されたのであった。

教訓「霜の降りた朝、視界ゼロの車を勘で運転する無謀なおばちゃんに注意しよう!」


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