2005年10月22日(土)。今シーズンを締めくくる、草津温泉1泊ツーリングの初日。久しぶりのRGV250γ(ガンマ)にまたがり、集合場所である三才山トンネルの料金所脇駐車場に向かうべく、寒風吹きすさぶ中、R254を快調に飛ばしていた。集合時間は6時30分。このペースならギリギリ間に合うだろう。 遅いクルマを登坂車線区間で蹴散らし、三才山トンネルに入る。「風圧が低いのか、はたまた下りになっているせいなのかはよく分からないが、まったくトンネルの中ってやつはスピードが乗るものだぜぇ〜!」 ところが、まもなくトンネルを抜けるという時、突然γのパワーが落ちた。かすかにビチビチビチ…、妙な音がする。何か平べったい小さな布状のものが風で車体に当たっているかのよう。ジャケットの一部が車体に当たっているのだろうか?上体を起こしてみたが音は鳴りやまなかった。 「ま、いっか。パワーダウンしたのも例の症状だろう。」 例の症状…。このγはなぜか、一旦スピードリミッターがきいてしまうと、ずいぶんとスピードが落ちた後じゃないと、いくらアクセルを開けても加速を再開しないのだ。今回はスピードリミッターがきくまで加速したわけではなかったが、類似の症状がたまたま起こったのに違いない。 三才山トンネルの料金所。料金を支払う為にアクセルから手を離したら、エンジンが止まってしまった。「あれ!?標高が高いからかな?」気を取り直してキック。エンジン再始動!後続車はいなかったので、誰にも迷惑は掛からなかったことだろう。 全員集合し、いざ出発という時、いつもは1,000rpm程度にしてあるアイドリングが500rpm位になっていて、アクセルを戻すとエンジンが止まる。一抹の不安を感じつつも、最後尾で発進。なんだか力がないように思えるが、一応、走ってはいる。加速もする。やはり標高が高いせいだろう。丸子町辺りまで行けば復活するに違いない。「…でも、いくら標高が高いとはいえ、こんなに調子悪くなったことって、あったっけ?」無かったように思える…。そもそも、ここよりはるかに標高の高いビーナスラインでも全く問題はなかったのだ。 三才山の長い下りが終わった。もともとトルクのないγとはいえ、普段は6速で巡航できるのだが、あれれれ…、走れない。スピードが徐々に落ち、後続車が迫ってくる。ギアを落とし、アクセルを開けて5,000rpm以上をキープしないと失速してしまう。おかしい、これは、おかしいぞ。どうしたってんだγ!? 仕方なく、2〜3速位で走る。それでも力がない。信号待ちで停止した後の発進、なかなか前に進んでくれない。いつもとエンジン音が違い、ボロロロ…と低い音がする。…これは、予想するに、1気筒死んでいるのではないか? 上田市のコンビニで休憩。「調子が悪い。」と他のメンバーに訴えると、ヒデがγのアクセルをあおってみた。ビィーン、ビィーン!「(ヒデ)なんだ、噴け上がるじゃん。」もしかして直った?と思ったのも束の間、走り出すとやはりメチャクチャ加速が悪い。まごまごしていたら、後ろから来たおねーちゃんのライフ(軽自動車)に抜かれた。(直線で何とか抜き返したが…。) 小県郡真田町。R144とR406の分岐点の信号が赤だったので、それまでトロトロ前方を走っていた先頭の普通トラックの前に全員で出るべくすり抜け。間もなく信号が緑になろうかという時、だがしかし、γはまだトラックの横。トラックはウメ達が前に出るなり、「バイクがよぅ〜。生意気なんだよぅ。オラオラ轢いてけらゾ〜。」とばかりにアクセルを空噴かししている。シグナルグリーン!全車一斉にスタート!ビッグマシンの圧倒的な加速により、他のメンバーはあっという間に視界から消え去った。そして案の定、我がγは普通トラックのディーゼルガスを浴びることとなった。地図持ってないし、ここではぐれてしまっては、宿にたどり着けないかも。やむなく、イエローカットで追い越しに掛かったのだが、ジワジワとしか加速してくれない。右ブラインドコーナーが目の前に迫る。「う、やばい!対向車が来る!?」とビビりながらも、幸いにして対向車は来ず、追い越しはやっとこさ完了。1気筒だけで走っているとしても、単純に45馬力の半分のパワーが出ているというわけではなく、まるで50CCのギア付き原チャリにでも乗っているかの感覚であった。 群馬県嬬恋村のコンビニで休憩。手が冷たいので、他のバイクのマフラーで温めようとするも、熱過ぎてヤケドしそう(そりゃそうだ)。次にγの右2本出しチャンバーの上側を触ると…、ななななんと!ヒンヤリとしている。そう言えば、さっきカンちゃんが「気筒が死んでいる場合、シリンダーヘッドを触ってみるといいらしいよ。」と言っていたが、チャンバーで分かった。1気筒死んでいるのは、もはや疑う余地なし。エンジンを噴かすと、上側チャンバーのみ白い排気ガスを吐くので、てっきり下側チャンバーの気筒が死んでいるものと思っていたのだが、実は逆だった。燃えないガソリンとツーストオイルがそのまま大気中に放出されているのであった。 他のメンバーは当初の予定通り榛名山に向かうのだが、私はバイク屋さんに行くことにした。マコちゃんがコンビニの公衆電話に備え付けのイエローページで調べてくれた。最寄りは中之条町に数軒ありそうだった。マコちゃんの地図をコンビニのコピー機で拡大コピー。いつものクセで、まずは釣銭口に指を入れる。すると…、20円あったので、ありがたく使わせてもらい、残った10円は老後の為の貯蓄に回すこととした。占有離脱物横領? 地図をコピーしたので道は完璧。途中までみんなと一緒に行くはずであったが、すり抜けは気が引けたので、間もなく置いていかれた。観光バスのディーゼル臭い排気ガスを浴びつつ、渓谷沿いの山道(R144)を走る。紅葉が進めばさぞかし美しいことだろう。他のメンバーは今頃榛名湖目指して県道28号線を攻めるべく、目を三角形にしてひたすら前進することだけに集中しているのに違いない。景色を楽しむ余裕もないとは、かわいそうな連中だ。 民家がちらほらと現れ、右手にコメリ(ホームセンター)の看板が見えた。バイク屋さんに行く前にプラグキャップくらいは見ておこうと、コメリの駐車場に乗り入れた。ここでガソリンタンクの下に2本隠れているであろうプラグを探し当てるのだ。 車載工具は錆びて白い粉がふいている。着座シートは六角レンチで外れたが、タンクを外すにはメガネレンチが必要だ。見当たらない。プラグレンチもない。なんという車載工具だ。だが、ここはホームセンター。大抵のものは揃っている。お目当てのメガネレンチは、単品売りとなるとバカに高い。セット物の方が断然お得だ。しかし、セット物を買ったとしても、重量はあるし、家にもメガネレンチセットならあるから無駄になるだろう。でも単品は高い。でもセット物は…。さんざん迷った挙げ句、8と10が対になったメガネレンチを1本と、ガソリンタンクのチューブの留め金を外す為にラジオペンチを購入した。 ガソリンタンクを下ろした。おかしいことに、2本あるはずのプラグは1本しか見当たらない。一体もう1気筒はどこに隠れているのであろうか?どーしても見付けられなかったので諦め、プラグキャップは正常だったから、そのままタンクを戻した。 「あれっ?」気付くと、1気筒はラジエーターのすぐ下にあり、カウルの穴から見えていた。車載工具にはメガネレンチはなかったもののスパナがあったので、タンクは下ろせただろうし、ガソリンタンクチューブの留め金は手で外せた。結果的に無駄な工具を2個も買ってしまったのであった。もうろくしたなぁ…。 とりあえず、出発だ。キック。「ポロロッ…。」掛からない。再度キック!「ガキッ!!」あれれっ!?引っ掛かってしまい、踏み下ろせなくなった。これは一体全体どうした事態なのか?ピストンが上死点または下死点にあるのか? 昔HONDA MBX50で直進中、突然後輪がロックし、エンジンストップしたことが1度だけあった。停車後、すぐにキック1発で再始動したので、たまたまピストンが上死点または下死点でロックしてしまったのに違いない、と結論づけたものだ。「もしコーナリング中にあの症状がまた起きたら?」との想いが頭の片隅をよぎりつつ、その後もしばらくの期間乗っていたが、同様の不具合は2度と起きなかった。あの時と同様なのではないか? もう1度γのギアを入れ、揺すってみる。キックは動かない。だめだ。どうする?バイクのサービスも始めたJAFに頼んでみるか?やけくそになり、えーい、コノヤロー!うごけー!と、ギアを入れたままバイクを前後にゆさゆさと揺する。ガキ、ガキ。何回か揺するうちに、ぷすすっ、手ごたえが。やったー。キック、動く、動くぞー!キック、キック、またキック。エンジン始動!!焦ったぁ〜!やはりピストンが上死点または下死点にあったのだ。 中之条町。目的のバイク屋さんを探す。よく分からない。おばさんに聞いたところ、すぐそこである、と指差された。指の先、目の前にそのバイク屋はあった。恥ずかしかった。 バイク屋の年配の店主は、スクーターから外したらしきホイールをブラシでゴシゴシと、錆び落としに一所懸命。こちらをちらっと一瞥するも、「いらっしゃい。」の一言すらなし。「ツーリング中なのですが、1気筒死んでいるようなので、見てもらえないですか?」と店主にお願いしてみたが、「うーん、プラグ交換くらいはできるがね、1気筒ダメだとなると、時間が掛かるね〜。どこまで行くの?…長野?地元でやってもらったほうがいいね〜。」と、どこかつれない返事であった。走っているうちに突然に故障したので、プラグではないだろう、と強く勝手に信じ込んでいたから、そのまま退散。(後で思うと、その時にプラグを替えてもらえば“一時的”には復活したはずだ。) R145バイパス沿いのコンビニでパンを買い、携帯電話を持っていない私は、兼ねてよりの打ち合わせ通り、公衆電話からウメのケータイに状況報告の伝言を入れた。そして、ほのかに生臭さのただよう吾妻川のほとりで、パンを1人食したのであった。 12時。さて、これからどうするか。とりあえず中之条駅まで行き、再度メンバーに連絡しようと考えて、キック数回、トロトロと発進。おっと、標識によると右が駅らしいが通り過ぎてしまった。適当に入った店の駐車場でUターン。すると、後ろからバイクがやって来た。なんとそれは、ヒロであった!「四の五の言わずに黙ってオレについて来い!」と彼が言うので付いて行った。どこに行くのだろうか?きっといいところに連れていってくれるのに違いない!だが果たして、行き先は中之条駅だった…。さっき行き過ぎたあの交差点を曲がればすぐに駅だったろうに、ぐる〜っと大きく迂回したのだった。駅には他のメンバーが待っていた。恐ろしいことに、ヒロにこちらの捜索を担当させたとのことだ。あの方向音痴のヒロに…、である。なんと勇気のある人達だ。っていうか、(最近とみにひどくなってきた)ウメの意地悪に違いない。(真相は「グレートツーリング外伝 '05 in 草津」の10月22日を参照のこと。) 状況を報告する。プラグを替えてもらえば良かったではないか、と口々に言われた。だって、絶対にプラグではないと勝手に強く信じ込んでいたんだもん。 中之条駅前で昼飯を済ませ、草津へ向かうR292は山の中のワインディング。登りを1 or 2速で走る。エンジンは10,000rpmなのになかなか登ってくれない。これはきつい!間もなく草津という山の中で、突然、エンジンが止まった。前を走っていたマコちゃんの姿は右カーブの先へと小さく消えた。トリップメーターは給油してから108kmを示している。通常、ツーリングなら200kmは無給油で走れるので、燃料切れではないはずだ。何度もキックしてみたが、全くエンジンは息を吹き返さない。さて、困った。どうしよう。山の中では公衆電話もない。でも、まてよ、と予備タンにしてみる。掛かった。なんと、1 or 2速の高回転の走りによって、燃費が極端に悪化していたのであった。気持ちとしては、「実質的な排気量が半分になっているので、燃費も倍にのびるかも。」と淡い期待をしていたのだが、それは大間違いであると悟った瞬間であった。 すぐ先で待っていてくれたので、メンバーとも合流でき、そこから草津温泉まではほとんど下りになっていて、今までの上りとは打って変わってとても楽に感じた。下りに大パワーは必要ないと実感。HONDAでは数車種のエンジンで、6気筒のうちの片側3気筒を走行状態に応じて休止する可変シリンダーシステムを採用し、ガソリンを節約すると聞くが、まったく理にかなっているシステムだ。 爆音、煙、生ガスそして生オイルを大気中にまき散らし、草津温泉の観光客に噴きかけ、ついに2日間を走り切ったわけであったが、とにかく上り坂の発進が辛かった。また、下り坂のありがたいことといったらなかった。 帰りは松本市内のとあるバイク屋を目指した。カンちゃんのマシンを車検に出すというので、彼のマシン購入先で見てもらうことにしたのだ。 「じゃ、プラグを替えてみましょうか。」どこぞの群馬県にあるバイク屋のオヤジと違い、店主のA氏は即、プラグ交換に取り掛かった。「どっちの方だい?」チャンバーの配管から見て、タンクを下ろさなくては替えられない方に違いなかったので、タンク下の気筒を指定。ところが、外したプラグは燃えかすが黒くこびりついていて、予想していたガソリンとオイルの濡れはいっさい無く、また、プラグを抜いた後のシリンダーの穴からは、ホワーンと煙が立ち上っていた。間違った。死んでいるのはラジエーターの下の気筒だったのだ。エンジンを掛けたが、症状は改善しなかった。そりゃそうだ。 ラジエーター下のプラグは生ガスに洗われてヌラヌラと鈍い銀色に濡れそぼっていた。ただ、おかしなことに、電極がひん曲がっていてギャップが完全に無くなっていた。 2気筒ともプラグは新品になりキック1発、冷えていた上側チャンバーからは、生ガスではない白煙が、ボウボウと噴き出した。直った!!…のか?…なぜプラグの電極が曲がっていた? A氏も不可解な現象に首をひねりつつ、考えられる原因について色々と話をしてくれた。ピストンリングが欠けて取れる、クランクのベアリングにガタがきて取れる、あるいは、ウォーターハンマーという現象も考えられる、とのことだった。「でも、エンジンに異音が出ていないからねぇ〜。フツーはそうなりゃ、かなりの音が出るはずだと思うんだけどねぇ。ウ〜ン…。」確かに、2日乗ったが、いつもと違う音はしていたものの、うるさいレベルの異音はなかった。三才山トンネルには霊が棲んでいる?んなバカな…。事件は迷宮入りかと思われた。そのうち、A氏の口から、“引っ掛かる”という単語が出てきた。「んっ。そう言えば…」群馬のホームセンターでキックができなかったことを報告してみた。「あー!間違いないね、それだ。なんか引っ掛かってるわ。こりゃまた同じことになるね!」A氏は自信たっぷりに言い切った。 プラグを替えてよみがえったとはいえ、そんなマシンでは怖くて乗っていられるはずもない。ここは原因を追及してもらうことにして、帰りはカンちゃんの奥さん、ネーネに送って行ってもらった。息子のぽーちゃも同乗していたが、車の中ですやすやと、夢の中であった。 「でも、エンジンをバラすとなれば、きっと、それなりに工賃が掛かるんだよなぁ〜。」お金のことが心配で、夢に見そうだ。このまま捨てることになったとしても、プラグ代、原因追及代は当然、必要になることだろう。 翌週、バイク屋から連絡があった。原因は、排気バルブがシリンダーを突いたとのことだった。やはり、三才山トンネルの霊のせいではなかったらしい…。とりあえず動くから引き取って来て、壊れてもすぐに帰れる位の距離用のチョイノリに使うか、とも思ったのだが、「エンジンはバラしちまってバラバラだし、組むっていうと工賃が掛かるよ〜。」とA氏に言われ、その“工賃が掛かる”という言葉で即決、そのまま廃車にすることにした。 廃車手続きに必要な書類を取りに妻子を連れてバイク屋に行った。偶然にも、直後にカンちゃんとネーネがやって来た。サンダーエースの自賠責の書類を取りに来たらしい。γは、ピストンが見えていて、トレイの中にはバラバラになった部品群が入っていた。説明を受けてもよく分からなかったが、見慣れたツーサイクルエンジンの図とは違い、この時代、排気バルブは円柱状になっていて、縦3枚にスライスされ、各々回転域により制御され、開口部の面積が変わるとのこと。設計上はピストンまで達するはずはないが、ガタがきてピストンを突いたのではないか、とのこと。確かに、排気バルブ、ピストンともに傷が付いていた。 RGV250γ。1990年モデル(推定)。2002年6月入手。少なくとも私で4人目のオーナー。たしかにボロかった。カウルは割れ、スポンジ類は劣化してボロボロ。白煙は吐く、燃費は悪い、変なリミッタ―のきき方はする。…だがしかし、パンチのあるエンジン、軽い車体、乗る人が乗れば、峠でビッグマシンをもカモれるであろう実力は、なかなか侮れず、味わい深く、乗っていて面白いものであった。 妻、息子、カンちゃん、ネーネ、A氏、そして私。6人に看取られ、γは15年間の永きに渡る戦いを終えた…。 |
![]() |
![]() |
・